上橋菜穂子乱読。

お久し振りです。
って、もう四年ぶりかぁ――最近商業の小説をあんまり読んでなかった(学術系中心)のですが、そんなこんななので、ちょっくら。
何か、“何様?”と云うコメが入ってたみたいですが、うん、俺様。
なので、そう云うカンジの自分的通常運転で参りますよ。


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んでもって、上橋菜穂子
まぁ何か賞もお取りになったようですし、読んどくべきなのかなぁ(しかし気は進まない)と思って、とりあえず文庫の『獣の奏者』1、2巻と『守り人』シリーズの6巻目(=『神の守り人』上下巻)まで、それから出たばかりの『鹿の王』上下巻を読みました。『鹿の王』以外は、全部×ック×フで¥108-で入手。それ以上かけるかよ。巻数多いから、ISBN入力はしませんよ。
以下、毒吐き注意!! ファンの人は退避して下さい、って云ったからね! 云った! 警告したので、読んでからの苦情は受け付けませんぞ。



とりあえず、この辺読んで思ったのは、“頭で考えて書く人だなー”でした。
って云うか、私のFT入るきっかけはパトリシア・マキリップなわけですが、その後すぐ読んだ和製FTは『グイン・サーガ』だったのですよね。
で、この辺の人(ル・グィンもそうですが)って、あんまり頭の中で物語をこねくり回してないと云うか、キャラとかがはっきり立つと、物語が自然に流れていくタイプみたいなんですよね、ル・グィンなんかは『夜の言葉』(岩波現代文庫)で書いてましたが。
つまり、キャラの性格に破綻がない人の物語ばっか読んでたわけです、良くできてるラノベもそうですが(←よくできてないのは読まないからわからぬ)。


それに較べると、上橋さんって、話を成立させるためにキャラを枉げるなーって云う印象があります。
最初にそれを思ったのは『神の守り人』の上巻、じゃなくて『虚空の旅人』かな、何か、流れ的にこのキャラが云わないような科白を云わせてるなーってのがあって。サブキャラの村長的な人だったから、あんまり強くは感じなかったんですが、『神の守り人』だと、バルサがね……手練れの用心棒は、そこでほだされちゃいかんだろうってのが。まぁ、そもそも『精霊の守り人』から、バルサって凄腕の用心棒って感じはしなかったのですが――何でかね。(多分、平和なとこで生きてる人間の考える“凄腕の用心棒”ってのは、実際の戦地とかではさほどでもない、ってあれかなぁ。考えが甘いんだよね、イマイチね)
これがタンダがほだされて、ってのなら、今までの流れ&キャラ的に違和感なかったのですが(まぁ、それだといつも同じパターン、ってことにはなったでしょうけども)、慎重なはずのバルサが引きずられて、しかもそれが幼少時のトラウマ的なアレが原因、って、あんまり簡単過ぎないか?
『闇の守り人』で出したバルサの過去を、何かもの凄く簡単に使っちゃったなぁって云うカンジが致しました。多少なりとも乗り越えた後の話とは思えなかった。『闇〜』前なら、そう云う過去だからで済んだかも知れないけど、あれがあってこれかよ、って感じは否めませんでした。


もちろん、枉げたったってほんのちょっとで、わかんない人にはわかんないとは思います。流石に金貰ってるだけあって、人物造形も“紙人形ぺら”(←薄っぺらな造形のキャラに対して、こう云う云い方をしてる)ってことはなく、TDLのロボットくらいな出来ではあるので。後ろの仕掛けはやや隠せてませんが。
でも、『守り人』シリーズに微かな違和感を感じてるのは私だけじゃなかった。職場の人も若干名(まぁ、そもそも読んでない人間も多いみたい)、“「守り人」はちょっと……”って云ってる人がいました。その人も、『獣の奏者』はまぁ好きだと云ってましたが、そうですね、私的にも『奏者』の方が、キャラクター造形的には腑に落ちました。ただ、世界設定が書き割りなんだけどね、ものすごくね!!
『守り人』は、主役は何とかTDLのロボットクラスなんだけど、サブキャラが風船人形でね……そこに上橋さんが(作者にとって)都合のいい科白とかをぶち込んでくるもんだから、とっても操り人形の糸が見えて、正直興醒めと云うか。
まぁ百歩譲って、その“糸”が見え見えでもストーリィ的に腑に落ちるんなら良いんだけど、『守り人』はなー、どうも話上の御都合が酷くって、しかも納得し易い御都合でもない、枉げる系のご都合だからなー。
シリーズ最後まで読めと云う方があるかも知れませんが、『十二国記』的破綻はないが気が滅入る展開(小野不由美って、やっぱ巧いですよね)、って云うのでもなし、ここから大逆転ってのは無理じゃないの?


その傾向は、最新作『鹿の王』でも顕著、と云うか、短いから誤魔化しがきかなかった系かこれは。
『鹿の王』は新刊でちゃんと買ったのですが、正直に云いますが、KADOKAWAの戦略にやられたカンジ、と云うか、きっぱりはっきり梶原にきさんのイメージイラスト見なければ買いませんでした。うん、これはKADOKAWAの戦略勝ち(ちなみにこのイラスト、本には一切載っておりません)。
まぁ、主人公の片割れヴァンはいいんだ。流石に十年くらいあたためてたキャラらしく、ヴァンには目立った破綻はありませんでした。
いかんのはもう一人の主人公ホッサル、っつーか、ホッサルまわりがヤバい。
いや、マコウカンはいいんですよ、割とよく書けてると思います。が、ホッサルの嫁とかじいちゃんとか、医療系のキャラが薄っぺらでね! 免疫系の解説をしてる時とか、上橋さんが憶えた知識を一生懸命書き出してるんだな、って云うのが見えちゃって、ホッサルが賢そうに見えないんだもん。
って云うか、そもそも医療系のキャラの顔がわからん。ヴァンとかマコウカンとかは、梶原にきさんのイラストの顔でイメージして読むとちゃんと表情が出てくるのですが、ホッサルまわりは全然駄目だった。と云うよりも、誰がどの科白を喋ってるのかすら判別がつきませんでした。
話自体は悪くもなかった(←あくまでも構想段階の話の流れのことです)が、とにかく人間が(ヴァンとマコウカン以外)ほとんど書けてないので、点数的には55点くらいかなー。


つか、上橋さん、文化人類学とかの学者さんだそうですが、実は頭良くないの?
と思うくらいに、賢い設定の人とか、老賢者タイプの人が駄目……
と云うか、この人は人間のどこを見て話を書いてるんだろうか。人間の何を観察したら、ああ云うキャラ設定って云うかキャラ立てになるんだろうか、もの凄く疑問。
結局、話を頭で考えちゃうのも、キャラの人間性が確立してないから、作者の都合で平気で行動規範を枉げてしまえるからなんだと思う。故・栗本薫とかル・グィンとかは、キャラが勝手に語ってくれるタイプだったので、作者の都合で話を作ることはない(と、両者とも云ってたもんな)のですが、上橋さんは“こう云う話を書いてやろう”って考えて作るタイプなんだろうなぁ。
まぁ、それでキャラがしっかりして、違和感なく“生きて”くれれば良かったんだけど、そこまで物語の神様に愛されてるタイプではないんだよね、この人。だから、平気でキャラを枉げて、話の流れを優先させちゃえるんだと思う。
児童文学だから、って云う人があるかも知れませんが、少なくとも私は、ル・グィンとかミヒャエル・エンデとかでそう云う“枉げてる”感を感じたことはないし、その辺の話で人間が書けてないと感じたこともないんですが。よく云われるように、物語としての良し悪しと、その物語の対象年齢とは、まったく関係ないと思っております。
ので、ここは素直に“上橋さんがストーリィテラーとして駄目”と云う結論を出しておこうと思うんですが。
うん、残りのを読むとしても、やっぱ¥108-以上は出さんでええわ。


正直、一作目ほどのパワーはなくなってきたと云っても、乾石智子さんの方が面白いと云うか、違和感なく読めるなぁ。東京創元のFTは頑張ってると思います、翻訳も含めて。タニス・リーの『パラディスの秘録』も完結させるそうですしね!
児童文学だと、古いですが&今は幻冬舎文庫に入ってますが、『童話物語』も良かった。
定番のファージョンとかも好き。『ラング世界童話集』は、旧訳の方が好きだけど、手許にある6冊のうち5冊は新訳……イラストは新訳版の方が好きな人が多いのですが、なじんだのは旧訳なんだよなぁ。『むらさきいろ』は旧訳で欲しい、が……


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ってわけで、久々の読書日記は激辛ver.でした。
最近はちまちまと新刊小説も読んでるので、もうちょっと他のも書くかもですが。
まぁまぁ、俺様が駄目な方はバックでね。
宜しくお願い致します。