黒鉄に踊らされて、

芥川をGET。新潮文庫。初期のは揃ってるだろうと思っていたら、何故か『蜘蛛の糸』がうちになく。しかし、新しい表紙は嫌いなので、古本屋で旧いのをGET。カバー破れてる上に高いなぁ……くそ。

手始めに『侏儒の言葉』から読む――箴言集だね。
箴言集は好きです。ラ・ロシュフーコーのとか、アランのとか、シオランのとか読んでます。
が、芥川のは、もっと――アンニュイというか、毒舌パワーがない。まぁ、自殺する直前のものだから、ずばずば云い切るパワーがあるわきゃないんだけど。
しかし、「作家」とか云う項とか、面白いですね。「文を作らんとするものの彼自身を恥ずるのは罪悪である。彼自身を恥ずる心の上には如何なる独創の芽も生えたことはない」とか、「あらゆる古来の天才は、我々凡人の手のとどかない壁上の釘に帽子をかけている。尤も踏み台がなかった訣ではない」とかね。

でも、『杜子春』とか読んで思ったのですが、この人、本当に繊細な神経してたんだなぁ。あの均整の取れた文章と、完成された構成力って云うのは――もしかしたら、あまりに生き難い世間から逃避するための、閉じた“完璧な世界”へのダイヴだったのかもしれないなと思います。ただ、その世界はタイトロープの上にあった、みたいなカンジなのですが。
病跡学的な本とかを読んでしまった今となっては、芥川の作品は、その経歴を考慮せずには読めなくなってしまったので、この解釈は多分にフィルターかかっているんだとは思うんですが。
ただ、何て云うか、必死だったのかなぁと――『鼻』で夏目に激賞されて、華々しくデビューしたけれど、それでは埋まらなかったものを抱えていたんだなぁとは思います。
だから、「(天国に)入らなかった? 入れてもらえなかった? 入りたくなかった?」という黒鉄の河童の問いかけは、何かすごく――すげぇなぁってカンジ。いや、ホント。