戦争における「人殺し」の心理学

ちくま学芸文庫の先月の新刊。デーヴ・グロスマンという、元米軍将校が書いた本です。戦場における戦闘=殺人の心理的システムを、様々な観点から書いてあります。
著者は、様々な配属先を転々として(北極圏のツンドラからNATO本部まで)いますが、実際に人を殺したことはないそうです。ただし、この本の中の兵士や士官の証言は、基本的に実際の事件に関するもので、最新では湾岸戦争までをフォローしてあります。
元は、鋼錬の参考資料に買ったのですが、違う意味で、読んでみてよかったと思いました。これは、あれだ、米兵の収容所におけるイラク人捕虜虐待と同じ類の記事ですね。

思うんですが、戦争の悲惨というのは、多分勝者の側を見て感じるものなんだろうなぁと思います、特に近年の戦争においては。昔なら、戦争にも美学があって、例えば一騎打ちとか、名誉の問題が非常に大きなウェイトを占めていたわけだけれど、現代はそうじゃない。ベトナムや、今回のイラクにおいて、勝者のはずの(ベトナムは違うか)アメリカ人の中に、戦闘神経症になったものの多かったこと、社会復帰できないままの人間もいること、帰国しても、必ずしも彼らの正義が称揚されないこと――そのなかで、罪悪感に苛まれるひとのあること、を、我々は知るべきなんだと思うのです。

今後、多国籍軍自衛隊が参加したとして、大義もなく、国民の半数からは肯定もされず、忠誠に値する指導者もない、そんな状況の自衛隊員が、もし人を殺す(自衛のためであっても)ことになったとき、一体国は、政府は、我々は、彼らが抱くであろう罪悪感を、どのように慰撫することができるのか――もしも、あなたの父親が、恋人が、兄弟が、そのような事態になって、一生消えぬ傷を背負ってゆかねばならなくなったら、その時自分はどうすればいいのか。一度ちゃんと考えるべきだと思います。
このまま、不穏な流れのままに、憲法改正をして良いのか――この本を読んで、一度じっくり考えて欲しい。失ってからでは遅いのです。この本の内容は、もはや対岸の火事とは云い切れないものになってきているのですから。